門倉 周史さん(門倉農園)
子どもの頃に文集に書いた将来の夢は『小松菜をつくる人』。門倉さんはそのとおり6代目として門倉農園を経営しています。農業のイロハは父から学べばいいということで大学は農学部を選ばず、3年生のときから家で本格的な修行を始めました。卒業後も父を手伝い、22歳のときに家業を受け継ぎました。
「家を継ぐと決めたのは、自信を持って仕事をする父の姿を見たり、父が作る小松菜をおいしいと言ってくれる人の話を聞いたりして、幼心にいい仕事だなと思ったからです。よく畑の手伝いをしましたし、大学生くらいまでは小松菜以外にも、神棚のしめ縄づくりなどもやっていましたよ」
若くして大黒柱となった門倉さんは経営方針を変えました。小松菜を競りには出さない。競りに掛けられると、自分の力の及ばないところで価格が決まります。江戸川区の特産品といいながら扱われ方がおかしい。門倉さんの目にはそう映りました。さらに、農業はもっと儲かる産業でなくてはならないという思いもありました。ちょうどその頃、農業の販売マーケットの多様化の流れがあったこともあり、門倉さんは高級スーパーへの営業・契約販売を始めます。
「農家もビジネス感覚を持たなくてはいけないと思うんです。競りとは違い、契約販売は値段交渉ができます。先祖代々の小松菜には自信がありましたし、門倉農園のブランド価値を高めることもできるのではないかと思いました。最初はバイヤーさんが選びますが、最終的には消費者の方々が選んで買う。高級スーパーなので値段は高めですが、10年以上取引きが続いているということは一定の評価を得ているのだと思います」
門倉さんは農家が当たり前に行っている配送もやめました。これは新しい試みだったといいます。
「業者さんに家まで取りに来てもらっています。その代わり、大きい野菜冷蔵庫に小松菜を保管してあるので24時間いつでも取りに来ていいですよということにしています。取りに来られないときには、着払いの宅急便で送っています。なぜそうしているかというと、役割が違うと思うからです。自分たちはあくまで生産者であって、配送まで担うとこちらの負担が大きく、効率が悪くなってしまうんです」
このように高級スーパーに小松菜を出す一方で、世田谷区を中心にターゲットがまったく異なる学校給食にも出荷しています。
「先代からやっていましたが、途中で離れてしまったんです。しかし8年前から小原農園の小原さんとの縁で再開しました。やっぱり子どもたちにおいしいものを食べてほしいという気持ちは大きいです」

小原さんとは、農業経営に関する共通点が多かったことから、2017年に『K&Kファーム』を設立して、経営の一部を共同で始めています。
「小原さんは分析に分析を重ねて、理論的に小松菜を生産するタイプ。肥料や水など数ミリ単位の世界で栽培しています。すごいなと思います。自分は逆で、良いと思ったら直感的にやってしまうタイプ。そのあとで努力して何とか成功へと持っていくという感じですね(笑)」
この真反対の二人が昨年、第54回日本農業賞集団組織の部において特別賞を受賞。門倉農園は自他ともに認めるブランド力を持つ小松菜農家となりました。
高級スーパーへの営業の転換、配送の廃止など、見方によっては“強気”や“生意気”とも思える経営の裏には、人知れぬ努力があったというわけです。
門倉さんの理念は儲かってこその農家。農家ってすごいんだって姿を見せることが若い世代が農業に興味を持つきっかけになるはずだと確信しています。

Profile
門倉周史(かどくらしゅうじ)さん
年齢/41歳 農業歴/19年
主な生産/小松菜、ハーブ17種類
性格自己分析/直感を大事にしている
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(ライター:滝沢ヤス英)








