草薙 昭広さん(草薙農園)
地元発祥の名産を子どもたちにもっと知ってほしい。そんな願いから、江戸川区では学校給食に小松菜が頻繁に登場します。生産する農家さんは自らトラックを走らせ、区内の小・中学校にほぼ毎日配送。その担い手の一人が草薙昭広さんです。
「今は実家を継いで小松菜を栽培していますが、もともとは農業にはさほど興味がありませんでした。ただ、観葉植物を育てるのが好きだったので、サラリーマンをしながらいつかは家業を継いでもいいのかなと気持ちが変化していきました」
そして会社を辞め、親の手伝いから始めた農の仕事も気づいたら30年過ぎたといいます。以前は市場へ卸していた小松菜ですが、今はほぼすべてを江戸川区の小・中学校へと届けています。
「学校給食のために小松菜を配送するようになって約15年になります。小・中学校合わせて15校に届けています。私が担当する分だけで1カ月の消費量が2トンから2トン半。束にすると4000束、1日にすると200束にもなるんですよ」
さらりと話す草薙さんですが、自然環境の影響される野菜を、数量を切らさずに届けるのは大変なことです。
「給食なので、今回は100束しか収穫できませんでしたでは、学校に迷惑がかかります。今日も明日もあさっても200束。でも長年やっていると、この学校は多め、あちらの学校はそれほどではないというのが分かってきますので、考えながら先を見越して作るようにしています」
求められる安定供給。しかしながら昨今の温暖化で予測できないことも増えており、バランス良く作るのが難しくなっているともいいます。
小・中学校に小松菜を納品しているとよく聞かれるのが、「朝収穫してからの配送は大変ではないですか」という質問。朝のあわただしさや効率を考えると、前日に準備してお
かないと間に合わないのが実際のところ。
「給食ははやいところだと朝7時から作っていますので、朝穫りしている時間はないんですね。朝学校へ届け終わったら翌日分の小松菜を午前中に収穫し、お昼に梱包作業。そして学校ごとに仕分けして冷蔵庫で保管します。夕方になれば、種まきをして次の生産に入るというのが日課です」
父から学んだ小松菜作り。その技術は日進月歩です。遅れを取らないためにも専門書を読んだり、同業の仲間と情報交換したりしてきましたが、草薙さんが現時点でたどり着いた結論はやはり土作りです。
「土がちゃんとできてないと、どんなに技術があってもいい小松菜はできないです。団粒構造といって、赤玉のみたいなものがゴロゴロしている状態が理想的な土。上から水かけても水たまりにはならず、スッと地面の中に染み込んでいくんですよ」
その土を作る源泉となるのが堆肥です。草薙さんのところでは、千葉県のマザー牧場で飼われている牛や馬の糞をブレンドしたものを使用。年に一度、300坪の畑に約1トンの量を入れているといいます。
毎日当たり前のように献立に並ぶ小松菜。その裏では、農家さんの長年の経験と飽くなき探求心をベースとした確かな生産力がありました。
(ライター:滝沢ヤス英)